“パンドラの箱”という表現を、見ることがありますね。
使われ方としては「パンドラの箱を開けてしまった」なんてのが多いです。
でも、“パンドラの箱”の意味を知らない、もしくは意味は分かるけど背景を知らないという人、結構いるんじゃないかと。
そこで、パンドラの箱の意味と使い方、語源となった歴史をまとめました。
ギリシャ神話をこよなく愛する私が、詳しく紹介したいと思います。
パンドラの箱の意味と使い方
現代における、“パンドラの箱”の意味から見ていきましょう。
パンドラの箱の意味
パンドラの箱とは、「触れてはいけない事柄」という意味でよく使われます。
その他にも、
- 関わると禍いをもたらすもの
- 実行すると結果がどうなるか分からないもの
なんて意味で使われることが多いです。
だから、パンドラの箱という言葉は印象が良くありません。不幸を招き寄せるネガティブなイメージがあるんです。
これだけだと、ちょっと分かり難いですね。(^_^;)
実際にどのように使われているのか、具体的な例をあげながら説明したいと思います。
パンドラの箱の使い方
国民投票はパンドラの箱 民主主義の「怪物」は日本人にも宿る
出典:iRONNA(産経新聞)
こちらはiRONNAというサイトの、とある記事のタイトル。
ここで使われている“パンドラの箱”は、決して良い意味ではありません。
この記事は、イギリスがEUから脱退したことついて書いたもの。民主主義による国民投票は、国をトンデモナイ方向に導いてしまう危険性があるという、日本人への警告となっています。
つまり「国民投票はパンドラの箱」とは、”国民投票は国に禍を招くものでもある”とも読めますね。
生前退位、困惑する男系維持派 「パンドラの箱があく」
出典:朝日新聞デジタル
こちらは朝日新聞デジタルの、とある記事のタイトル。
この記事は、天皇陛下の生前退位について書かれたもの。生前退位というかつてない例外を認めれば、いずれ「天皇への即位辞退」という権利も生まれて、万世一系の系譜や国体へも影響が出てしまうのではないか?という危惧について書かれています。
ここでは“パンドラの箱”が、この先どうなってしまうのか分からない危惧を表していますね。
人民元の主要通貨入りで「パンドラの箱」を開いた中国
出典:MAG2NEWS(まぐまぐ)
こちらは、まぐまぐニュースのタイトル。
中国の人民元がIMF主要通貨の1つに加わったことで、中国は今までのように為替操作を行うことができなくなりました。
今後は為替操作ができず、経済が下向きになったときに、人民元が大暴落する可能性があります。
経済が崩壊すると、不平のたまっている人民が蜂起して、共産党による独裁が終わるかも。そうなると中国という国は多くの民族でできていますし、今も民族浄化を行っているぐらいなので、中国が無くなるかもしれないんですね。
人民元がIMF主要通貨に加わったとういことは、そういった爆弾を背負い込んだという意味。それを「パンドラの箱を開けた」と表現しているわけです。
このように、どのニュースのタイトルをみても、何が飛び出るか分からない、開けると禍をもたらすかも、という意味で使われていることが分かりますね。
次はどうして“パンドラの箱”なのか、その語源と歴史を見ていきましょう。
パンドラの箱の語源となったギリシャ神話
ギリシャ神話のなかで語られている
“パンドラの箱”の語源は、ギリシャ神話にあります。
ギリシャ神話は、いくつかの叙事詩が組み合わさったもの。パンドラの箱の話が出てくるのは、その中の「仕事と日」という叙事詩です。
有名な叙事詩である「イリアス」とか「オデュッセイア」なら聞いたことがある人も多いと思いますが、それに比べてマイナー感たっぷりですね。
「仕事と日」は、紀元前11〜15世紀に生まれた叙事詩。それまで口伝で伝わっていたものを、紀元前8〜7世紀頃にヘシオドスが編纂したと言われています。
ヘシオドスは「仕事の日」のなかで、神話を引き合いにだしながら、ゼウスを信じ労働に励まねばならない理由を語っています。個人的には、ゼウスほど信用できない神はいないとと思うんですけどね。
ちなみにヘシオドスさんが面白おかしくするために、話を盛っている可能性もあるそうな。
また、この叙事詩がローマ帝国に伝わったとき、ローマ人が自分達の神とギリシャ神話の神を合体させてしまったんですね。だから、ギリシャ神話の神の名前に、ギリシャ読みとラテン読みがあったりするワケです。
そういった歴史を経ていますので、ちょっと変なストーリーになっていても仕方ないんですよ。
というわけで前置きが長くなっちゃいましたが、“パンドラの箱”に関する神話について見てみましょう。
磔で鷲に喰われるプロメテウス
パンドラの箱を語るには、プロメテウスという神が欠かせません。パンドラの箱が作られる原因になった神ですので。
プロメテウスはもともと、ゼウスと敵対するティタン神族でした。でも先見の明があるプロメテウスは、ティタン戦争でゼウスが勝利することを見抜き、ゼウスに味方します。
しかしゼウスに心服していたわけではありません。
また、人間への接し方については大きく違い、ゼウスは人間に厳しく接しましたが、プロメテウスは好意的でした。
あるときプロメテウスは、牛を神と人間に取り分ける役を買ってでます。しかしこれはゼウスを欺いて、人間に利があるよう細工をするためでした。
結果的には、ゼウスの手のひらで転がされてしまうのですが、プロメテウスはこれによってゼウスの怒りを買います。
その報復としてゼウスは、人間の生活を過酷なものに変えました。人間は辛い労働をしなければ収穫が得られないように変えたのです。さらに火も取り上げてしまいました。人間にとっては完全にトバッチリですね(笑)
人間は困り果てます。それを見かねたプロメテウスが大茴香(おおういきょう、ナルテークス)という植物の茎に火を隠して、天から火を盗み出してくれました。
ゼウスは激怒し、プロメテウスをカウカサス山に磔になります。プロメテウスは毎日、大鷲に肝臓を食べられるという厳罰を受けます。
しかしプロメテウスは不死の神ですので、食べられた肝臓は次の日には元通り。この刑罰はヘラクレスが助けてくれるまで、3万年続きます。
さらにゼウスは、人間には火を得た代償に女という災いを与えることにしたんです。こうしてゼウスは、カラカラとお笑いになったそうな。
女性が災いって、今なら女性蔑視で訴えられるよね・・・。
神々が協力して造った人間の女「パンドラ」
ゼウスは神々に協力させて、人間の女「パンドラ」を造らせます。
古代ギリシャ語で、パン=全ての、ドラ=贈り物を意味し、「全ての神々からの贈り物」という意味があります。仕上げに、ヘルメスという神に命じて、乙女の胸に偽りと甘き言葉・不実の性という性質を植え付けました。
ヘシオドスは、女性に何かトラウマでもあったのでしょうか?(笑)実はヘシオドスはかなりの女嫌いだったという話があります。
そしてゼウスはこのパンドラに、決して開けてはイケナイ「甕(かめ)」を持たせ、プロメテウスの弟で愚者のエピメテウスのところに連れていきました。エピメテウスは、プロメテウスから忠告されていたにも関わらず、このパンドラを妻として娶ってしまいます。
ある日パンドラは、その不実な性が災いし、この甕を開けてしまいます。中にはパンドラが期待したようなものは何もなく、詰まっていたのは人間の苦しみとなる病気や恐怖、ありとあらゆる災いでした。そしてそれらが瞬く間に世界に飛び散っていったのです。
それまで人間は何不自由なく暮らしていました。しかしこの後、ありとあらゆる厄災に見舞われたのです。
パンドラの箱に最後に残ったものは希望?
パンドラが慌てて蓋を締めたとき、甕(かめ)の縁に残っていたものがあります。
それはエルピス。エルピスは一般的に、希望と解釈されています。古典ギリシャ語でエルピスは希望の他に、予兆や期待の意味もあります。
おかげで人間は、どんな病や災いにあっても、希望を持って生きられることになりました。
ここで私は、甕の縁に残ったものなら人間の世界に飛び出してないじゃん?みんな希望を持てないはず?と思ったけど、そんなことを気にしてたら読めない神話の世界なので黙っときます。
このことについて、一般的には「人間の手元に希望が残った」と捉えるようです。
エルピスに関しては、他にも様々な解釈があります。災いを封じ込めた壺なのだから、エルピスも災いだとする説など。
ただ「イリアス」に登場するゼウスの神殿にも、善と悪とが一緒に入っている甕が出ててきます。だから、パンドラがあけた甕(かめ)にも善と悪が混じっていても不思議ではない。つまりエルピスは希望でいいんじゃないの、って話もあります。
コレでようやく、“パンドラの甕”については説明が終わりました。ところで、なぜ“パンドラの甕”が箱になったのか不思議に思いますよね。次はそれです。
パンドラの甕がパンドラの箱になったのはなぜ?
ヘシオドスが書いた原書の「仕事と日」では、“パンドラの箱”のことを古代ギリシャ語でピトスと書いています。ピトスとは、甕・壺のこと。
つまり元々は、甕・壺だったものが、いつのまにか箱になって伝わったわけです。
これはルネサンス時代、ギリシャ語からラテン語への翻訳の際、エラスムスという神学者が、ピトスを箱と解釈したのが始まりみたいです。
次は、パンドラにまつわる余談です。
余談だけど箱舟にはパンドラの娘が乗る
プロメテウスの息子デウカリオンは、エピメテウスとパンドラの娘ピュラーを娶ります。完全に従兄弟同士なんだけど。
プロメテウスの予言に従い、デウカリオンは箱舟を建造し食料を積んで備えてました。するとゼウスは青銅時代の人間を滅ぼそうと、大雨を降らせ陸地をすっかり水底に沈めてしまいます。
9日間水上を漂ったあと、パルナッソス山に漂着した2人は、その地に降り犠牲を捧げます。するとゼウスがヘルメスを通して「なんでも願いごとを叶えてやろう」と伝えてきます。
2人は「人間の仲間が欲しい」と願い、その願いによりデウカリオンが投げた石は人間の男に、ピュラーの投げた石は人間の女となったのです。
箱舟も大変有名な話ですが、まさかパンドラの娘が乗っていたとは思いませんよね。
まとめ
以上、“パンドラの箱“について紹介しました。
パンドラとは人間の女のことで、全ての神々によって人類(男)に贈られた厄災という解釈だったんですね。完全に女性蔑視なんで、ギリシャ神話じゃなかったら絶対怒られてますね。
でもパンドラという名前に関しては諸説あり、神々が女に贈り物を与えたからパンドラという説もあります。ちなみにアポロドーロスの「ギリシャ神話」では、パンドラはプロメテウスが造ったものとされています。
このあたりは大昔の神話なので、変遷や諸説ありということで。
そしてパンドラの箱に最期に残ったものはエルピス≒希望で、希望が手元に残ったと考えるのが一般的ということでした。
パンドラの娘が箱舟に乗っていたのも驚きですね。
そしていつも思うのですが、ギリシャ神話に登場する最高神ゼウスの多重人格でサイコパスな性格はいったい何なんでしょうか?(笑)これが全知全能の神とは。
しかしここには理由があると思います。恐らく様々な神話や伝記をまとめるのに、統一した主体となる神が必要で、そのためにゼウスは1人で複数の役をこなす必要があったんじゃないかと。
そしていろんな役をこなすうちに、すっかり人格崩壊者として描かれようになってしまったのではと思います。
“パンドラの箱”は、永遠に使われる言葉ですね。最近ではモンストや、パスドラといった人気スマホゲームでも使われているようです。
コメント
ギリシャ語原典と各種言語~日本語に翻訳されると、意味はさらに勝手に解釈する例に枚挙には数えられない位。語学が苦手のため原本がヘロドトス辺りしかないのか、シュメール古典でも似た様な話もあり、BC11C頃時代でも関連資料で日本語で丁寧に翻訳文献は無いのか知りたいところ。